・分極しない燃料電池 燃料電池は、他の電池と同様に、電流をたくさん得ると(電流密度が大きくなるほど)電圧が低下します。この現象を分極と言います。分極には、電池内部の直流抵抗成分に起因する分極、電極の触媒能等の影響を受ける活性過分極と、供給ガスや生成物の除去等に起因する拡散分極があります。これらの分極をゼロにすることは困難ですが、可能な限り小さくすることが望まれます。 |
・超高性能触媒・担体 触媒の活性が高いほど、前述の活性化分極が小さくなります。また触媒担体は担体上に担持された触媒に電子を供給する役割を担っています。電子伝導が高いほど、前述の直流抵抗成分に起因する分極が小さくなります。また、担体の多孔構造も拡散分極に影響を及ぼします。但し、電極触媒や担体は、電池作動環境下での耐久性が高いことが同時に求められます。 |
・超高性能GDL・MPL GDL(Gas Diffusion Layer)と、GDLと触媒層の間に位置するMPL(Micro Porous Layer)は、集電の役割と活物質ガスの拡散と生成物の除去等を制御する役割を担っています。また、PEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell)の現状の電解質膜は保水状態でプロトン伝導性を発揮するため、MPLは生成した水分を適度に保持する役割も担っています。 |
・超高性能電解質膜・アイオノマー 電解質膜は、アノード(負極)やカソード(正極)で生成したイオンを反対側の電極に伝搬する役割を担っています。従って、イオン電導性が高いほど高性能と言えます。PEFCの場合、電極触媒と活物質ガスとイオン伝導体の3つが接する界面(3層界面)が、電極反応を司る重要な役割を果たしており、アイオノマーは3層界面にイオンを伝導する役割を果たしています。そのため、高いイオン電導性と高い活物質ガスの溶解度が求められます。また、電解質・アイオノマー共に高い耐久性が要求されます。 |
・超高性能集電体 ここで述べる集電体は、例えばPEFCスタックの場合、スタックの両端に位置して、スタックで発生した電流を伝導する役割を司っています。高い電子伝導性と作動雰囲気下における耐久性が求められます。 |
・理論起電圧が得られる燃料電池 水素・酸素燃料電池の理論起電圧は、25℃において1.23Vですが、現状のPEFCでは1V程度の起電圧しか得られないのが一般的です。これは、開回路(発電していない)状態で、既に2割程度の効率ロスが発生していることを意味します。理論通りの起電圧が得られれば、燃料電池の発電効率が現状よりも更に高くなることが期待できます。 |
・劣化しない高性能非貴金属触媒 現状のPEFC触媒には、白金系の貴金属触媒が用いられています。白金並みの高い活性と耐久性が得られる非貴金属触媒が開発されれば、PEFCではコストの観点で大きなゲームチェンジが起こることが期待されます。 |
・劣化しない高導電性担体 現状のPEFC触媒は、数10nm~数100nmの粒径のカーボン系電極担体上に、数nmレベルの微細な白金系触媒が担持されて構成されています。特にカソード側のカーボン担体は、高い電位等の要因で徐々に酸化されることが知られています。特に起動停止などの際に急峻に電位変動することでより酸化が促進されると言われています。そのため近年では、導電性のセラミックス系担体が活発に開発されています。今後、大型・商用モビリティー(HDV)向けの燃料電池が求められており、より高い担体の耐久性が求められています。 |
・劣化しない電解質(膜・アイオノマー)、ラジカルクエンチャー PEFCの電解質には、一般的にパーフルオロスルホン酸系のポリマーが用いられています。PEFCでは、発電時に極微量の過酸化水素が副生物として生成するため、系内に微量の鉄イオン等が不純物として存在すると、フェントン反応によりラジカルが生成し、これらの原因により徐々に膜が分解することが知られています。現状では、Ce系のラジカルクエンチャーを添加することで膜の分解を抑制する対策が取られています。一方で、Ceのマイグレーションか課題と言われており、劣化しない電解質膜や、より安定なラジカルクエンチャーが求められています。 |
・水を必要としない電解質膜・アイオノマー PEFCの電解質膜やアイオノマーは、水を含むことによってプロトン伝導性を発揮します。そのため、低加湿雰囲気下での電解質膜のイオン電導性の低下や、耐久性の低下が課題となっています。 |
・-40℃~ 200℃で作動する燃料電池 寒冷地で燃料電池を使用することを想定すると、-40℃程度から自立起動できることが求められます。また、HDV用を想定すると高出力運転時には120℃程度での作動が求められています。更に定置用として、より高質の排熱が利用可能とあることから、氷点下から高温までの幅広い動作温度が求められています。 |
・-40℃~ 200℃で高い伝導性と耐久性を有する電解質膜、アイオノマー 上記の理由から、PEFCは広い温度域での動作が求められています。そのための課題の一つが、広い温度範囲で動作し、かつ低加湿雰囲気下で、高いイオン電導性と高い耐久性を有する電解質やアイオノマーの開発です。 |
・安価で劣化しない燃料電池用セパレーター(バイポーラ板) 現状のPEFCのセパレーターには、定置用にはカーボン系の圧縮成形セパレーターが、自動車用にはチタ ン系の金属表面に耐食性と導電性を兼ね備えた表面処理が施されたセパレーターが用いられています。より安価で高い導電性と耐久性が両立できるセパレーターや表面処理技術が求められています。 |
・安価で劣化しない燃料電池用ガスケット PEFCの場合には、酸性雰囲気中で安定かつコンタミフリーの安価なガスケット材料が求められています。また製造コストの観点から、ガスケットの成型プロセスのタクト時間低減が求められています。 |
・不純物耐性・ロバスト性の高い燃料電池(触媒・電解質) 現状のPEFCは、様々な不純物に対して非常に敏感に反応します。特に硫黄系の不純物は、不可逆な劣化を引き起こすことが知られており、燃料電池の実用化には電池の系内に取り込まれないようにするための工夫が必要で、システムコストに影響を及ぼしています。そのため、そもそも不純物による影響を受けにくい、不純物耐性の高い燃料電池が求められています。 |
・大面積セルの量産設備投資への助成金 大規模発電装置を実現するためには、電極面積を増やす必要がありますが、大面積の製造設備には大きな設備投資が必要となります。 |
・大面積セル量産設備のタクト時間の短縮技術(輪転機程度) 量産機器の製造コスト低減には、各パーツや組み立てのタクト時間低減が不可欠です。製品完成までの各プロセスで最もタクト時間の長いプロセスが、製造工程全体のタクト時間を律速することとなり、タクト時間は製造コストに直結します。 |
・安価でコンタミレス、高容量、高耐久の加湿器 本来は、無加湿で作動できるPEFCが求められています。しかしながら、どうしても加湿が必要な場合、安価でコンタミレス、高容量、高耐久の加湿器が求められます。 |
・安価でコンタミレス、高容量、高耐久のイオン交換樹脂 本来は、不純物耐性の高いPEFCが求められています。しかしながら、供給水中の不純物を除去する必要 がある場合、安価でコンタミレス、高容量、高耐久のイオン交換樹脂が求められます。 |
・安価でコンタミレス、高容量、高耐久の不純物除去フィルター 同じ理由で、安価でコンタミレス、高容量、高耐久の不純物除去フィルターが求められています。 |
・安価でコンタミレス、劣化しないBOP 部材・機器・パワコン 同じ理由で、安価でコンタミレス、劣化しないBOP部材・機器に加えて、耐久性が高く高効率のパワコンが求められています。 |
・万能なモデルベース開発用シミュレーション技術 スタック、BOP、パワコン等でシステムを構成する際、従来は実際にシステムを構成し動作試験を実施して、設計通りシステムが作動しているかを確認試験していました。しかしながらこれらの試験には、大きな工数と費用が必用でした。これらを解決して出来るだけ少ない工数でシステムを完成するためにモデルベースシミュレーションの開発が求められています。 |
・DR(デマンドレスポンス)の規制緩和 純水素を用いるPEFCは瞬時の負荷変動に対応可能なため、電力系統の調整力として期待されています。 |
PEFCの構造(スタック構造とMEA構成) |
・重量エネルギー密度・体積エネルギー密度がガソリンより大きい非金属水素貯蔵材料 現状で大容量の水素を直接蓄える方法は、液体水素化か高圧縮水素に限られています。過去には金属水素化物に水素を貯蔵する方法も検討された経緯がありますが、現状の延長線上の金属水素化物では、移動体に搭載するためには重量の課題があります。そこで、重量エネルギー密度・体積エネルギー密度がガソリンより大きい非金属水素貯蔵材料が開発されれば、ゲームチャンジが起こるはずです。 |
・水素のエネルギー利用に関する高圧ガス保安法等の規制緩和や新しいルールの制定 現状では、水素をエネルギー源として利用することを前提とした規制がありません。そのため、現状で既にある様々な規制に忖度しながら水素を利用しています。水素をエネルギーとして利用するためのルールや制度を新たに作成すべきと思われます。 |
・不純物による不可逆劣化のない触媒・電解質・アイオノマー 不純物は、Pt系の触媒表面に吸着して性能劣化を引き起こすと考えられます。特に、不可逆な劣化を引き起こす硫化物系等の不純物は、Pt系の触媒表面に強く吸着し、分解・脱離が起こりにくいと考えられます。 |
・不純物耐性とロバスト性の高い触媒・電解質・アイオノマー 以上のような観点から、不純物を吸着しにくい触媒等の開発、または燃料電池の性能や耐久性に影響を及ぼさずに不純物を分解・脱離させるシーケンスの開発が望まれます。 |
・どんな燃料でも常温で分解できるアノード触媒 |
・高性能・安価・ロバスト性が高く劣化しない燃料処理触媒と、制御技術 |
・コンパクトな貯湯槽とこれを実現するため、水に替わる軽量・超高容量の蓄熱材量 |
・あらゆる部材のリサイクル技術 |
・再生可能電力のコスト低減 中東地域等の一部では、太陽光発電コストが2セント程度で実現できています。日本では、太陽光発電の稼働率は高く見積もって15%程度ですので、中東地域ほどの稼働率は期待できませんが、世界と比較した場合、日本の太陽光発電コストは、更に大幅に低減できる可能性があると思われます。また、北海道や東北地方の風況環境の優れた地域では、風力発電コストの低減も期待できます。 |
・安価で高効率・高耐久・低環境負荷・制御容易な水電解装置 現状の水電解方式には、大きく分けてアルカリ型、PEFCの逆反応であるPEM(Polymer Exchange Membrane)型、AEM(Anion Exchange Membrane)型、SOFCの逆反応であるSOEC(Solid Oxide Electrolyzer Cell)型があります。 |
・安価で高耐久、高温利用ができるAEM膜、アイオノマー 以上のような観点で、安価で高耐久、高温利用が期待できるAEM膜とアイオノマーの開発が求められています。 |
・アルカリ溶液循環フリーのAEM膜、アイオノマー AEM膜には純水のみで動作できる(アルカリ電解質の循環が不要)ものが必要です。アルカリ電解液を循 環する場合には、アルカリ型と同様に逆電流による起動停止時の課題が懸念されます。純水のみで動作可 能とするためには、アニオン導電性のアイオノマーが不可欠となります。アイオノマーが備わっていない 状態やプロトン導電性のアイオノマーで代用して純水のみで動作させる場合には、アルカリ型の大きな特 徴である電極触媒の非貴金属化が困難になるため、電極触媒の非貴金属化を達成するためにも、アニオン 導電性のアイオノマーの実現は非常に重要です。 |
・電位変動による劣化のない高性能非貴金属触媒 燃料電池触媒と同様に、起動停止や負荷変動などの電位変動による電極触媒の経年劣化が懸念されます。 |
・大面積量産設備のタクト時間の短縮技術 |
・安価でコンタミレス、劣化しないBOP部材・機器 |
・安価で導電性が高く劣化しないセパレーター・集電体耐食性・高導電性・ピンホールレス表面処理着技術 アノード側のセパレーターや集電部材には、およそ1.5V以上の高い電圧が印加されるため、高い耐食性が求められます。特にPEM型の場合には酸性雰囲気下であるため、アノード側のセパレーターや集電体には例えばチタン金属に白金メッキなどの耐食・導電性表面処理が必要であり、高コストの大きな要因になっています。貴金属を用いない安価で導電性が高く、接触抵抗が小さく、ピンホールのない表面処理技術が求められます。 |
・高圧化技術 水素を高圧タンクで貯蔵する場合、製造した水素が高圧で得られるほど、圧縮による効率ロスが低減できます。一般に、電解時に気体を電気化学的に圧縮する方が、機械的に圧縮するより高効率が実現できます。 |
・生成ガス除去を含めた拡散分極低減技術 物質移動促進のために、電極表面上で生成した水素や酸素の生成ガスの気泡を効率よく除去できる工夫が必要です。 |
・安価で高耐久の気液分離機・乾燥機 生成水素の気液分離と、アルカリ型の場合には、飛散してきたアルカリのスクラバーが必要になるケースがあります。 |
・安価で高耐久、高効率のパワコン、及び制御技術 |
・安価でコンタミレス、劣化しないBOP部材・機器 |
・安価で高容量、高耐久性の蓄電池 自立分散型の水電解システムを仮定し、例えば太陽光発電で発電した電力を水電解に用いる場合、太陽光発電の発電容量に合わせて水電解装置の容量を決定すると、太陽光発電の稼働率が水電解の稼働率を律速することになります。太陽光発電の稼働率は、国内では高くても高々15%程度です。そのため水電解装置の稼働率を向上させるためには、太陽光発電の容量に対して小さな規模の水電解装置を組み合わせ、一旦蓄電池で電力を蓄えて平準化させる、または外部からの電力供給が必要になります。太陽光発電に安価な蓄電池を組み合わせて水電解装置の稼働率を向上させることが望まれます。 |
・送電、電力融通等の規制緩和 |
・安価で高性能のスクラバー |